短編小説
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果たして、俺にこの体に値する資格などあったのだろうか。 悔しさをこめて、拳で廃業した店を殴りつけるなり、ガラスがピキッとひび割れた。 窓に映る捩じれた、とでも言おうか、歪んだ顔は、俺の仕草に倣って動いたからこそ、いや応なく俺自身のものだと認めざるを得なかった。 俺を嘲笑っていた。
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「明里ちゃん、外泊の準備はいい?」 明里は梨恵の椅子のまわりを歩き、座り込んだ。給食の時間なので教室はガヤガヤと騒いでいた。明里は復習しながら焼きそばパンを食べて終わったばかり、凛のために教科書を片付けた。 凛は向こうに座って、満面に笑みをたたえていた。
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鏡の反射を見て、妖怪が嘘をついているかどうか確かめようとした。妖怪の顔は変わらずに私を見返した。 妖怪の言葉を信じるわけがありえない。約束を決して守らない、その化け物。砂時計を洗面台のカウンターにガチャンと戻した。
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母はいつも、夜は出かけるなと言っていた。 一人で森に入るのは絶対にダメだと。 「はい」と俺は答えた。母の望み通りに。 でも、母はもういない。母が去ってから、家の光が消えてしまった。